きよう 四月にしては珍しい、あったかい日ですね、今日は。北海道の四月ったら、もっと寒、 いい日だね。 もんですけどね。増毛のほうの山も、はっきり見えて、海もきれいで、 それはそうと、本当にありがたいもんだねえ。わだしはね、再来年は数えで九十にな んですよ。こったら年寄りが、こうしてみんなに、大事に大事にしてもらってねえ。も ( たいない話です。これもみんな、多喜一一があったら死に方ばしたからかも知れないねえ。 そうか、この年になるまでの思い出ば聞いて下さるか。何せ、ずいぶんと長い間のこー るだから、忘れたことやら、うろ覚えのことやら、いろいろあるけど、それでいいのかね、 ふ あんたさん。 章 おおだて 一んだ、わだしはね、秋田の大館の在に生まれてね、そう釈迦内村っていう田舎でね。 がすぐ目の前まで迫ってくる、小さな小さな部落だった。夜、ふくろうがよく鳴いてね、 さび その声が妙に淋しくてねえ。 第一章ふるさと ましけ しやかない
第一章ふるさと 第二章小樽の空 第三章巣立ち 第四章出会い 第五章尾行 第六章多喜二の死 第七章山路越えて あとがき 小林セキ年譜 参考文献並に資料 解説 目次 久保田暁一一三五